「ティール組織」から考える組織の在り方

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除されてから一か月半が経過しました。私たちの日常は、コロナ禍以前のそれとは大きく異なり、テレワークや時短勤務に象徴されるように、ウィズコロナ/アフターコロナの新しい日常へと変化しています。加えて現代の社会では、加速するグローバル化、働き方改革、DX(デジタルトランスフォーメーション)などに伴って、目まぐるしい変化があらゆる分野で起こっており、今後も、今までの常識を覆すような変革が次々に起こっていくことが予想されます。先行きが不透明な時代において、企業があらゆる変化に柔軟に対応し競争力を維持していくために、組織の在り方そのものが見直されており、2014年にフレデリック・ラルー氏が著書『Reinventing Organizations』の中で発表した「ティール組織」という次世代型組織の概念が注目されています。

「ティール組織」とはいったいどういうもので、私たちはその考え方から何を学ぶことが出来るか、これからの成長戦略のヒントが見つかるかもしれません。

<今日お伝えすること>

  • ティール組織とは
  • これからの組織の在り方とは?
  • 中小企業の強みを活かそう
  • 活用できる補助金、助成金
  • さいごに

・ティール組織とは

 ティール組織とは、一言で言えば「生命体」のような組織です。

これだけではいまいちピン来ませんが、例えば多くの会社組織は「軍隊」や「機械」あるいは「家族」のような組織形態を採っていますが、これらの組織が否応なく持っている構造上の課題を解決した結果一つの生命体のような組織、つまりティール組織=「生命体」という次世代型組織形態のことです。

Natural Organizations Lab代表取締役吉原史郎氏は自身の著書で、ティール組織は「社長や上司が業務を管理するために介入しなくても、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことが出来るような独自の仕組みや、工夫にあふれている組織」であると表現しています。(引用元: 著者.吉原史郎『実務でつかむ!ティール組織“成果も人も大切にする”次世代型組織へのアプローチ』

そして「ティール組織」は、組織は段階的に成長しながらその形態を変えていくと考えているため、色を冠した5つの組織モデルで表現されています。

図.五段階の組織モデル

 レッド組織:「オオカミの群れ」

コハク組織:「軍隊」
 オレンジ組織:「機械」
 グリーン組織:「家族」
 ティール組織:「生命体」
 

 特定個人の力に依存した原始的な レッド組織


 厳格な階級的序列によって特定個人への依存度を下げ、より長期的な継続を目指す コハク組織


 成果や能力に応じて変動する役職階層を導入し、競争を促すことで変化への適応力を高めた オレンジ組織
 
現代企業の大半はこのオレンジ組織の形態を採っていると言われています。社員が成果や能力によって評価され昇進していくことが出来る形態です。組織内での競争が活発になることで、組織全体の成果が上がり、またレッド・コハク組織よりもイノベーションが起きやすく、組織間の競争に生き残りやすいというわけです。

ただ、オレンジ組織には成果主義、能力主義的側面が強くあり、所属する個人つまり社員は、組織の中で常に競争を強いられ、「機械」のように働いて成果を上げることを求められ続けます。成果を求めるあまり、長時間労働やサービス残業、性別や障害を理由とする差別などが生まれ、時に個人の人間としての幸せを軽視する側面が問題となっています。そのため、近年では「働き方改革」に代表されるように、個人の幸せや多様性を尊重しようという動きが目立ってきています。こうした動きは、従来型のオレンジ組織から次のグリーン組織への移行を促します。
 
 オレンジ組織と同様な役職階層を持ちながら、トップダウン型からボトムアップ志向型に転換し、個々人の主体性が発揮されることや多様性を尊重することに重きを置いたのが グリーン組織
 
グリーン組織は、組織内で共有された文化や価値観をもとに、少しずつ権力の分配を進め、時に役職にこだわらず、全員の声を活かした運営を目指す形態です。

例えば目安箱の設置運用、経営陣が一般社員の声に耳を傾ける機会を設ける、育児休暇の積極的な取得推奨、障碍者が働きやすい環境づくりなどはグリーン組織志向の運営と言えるでしょう。
 

グリーン組織の抱えている問題は、役職階層が残っていることによるトップダウンの意思決定とボトムアップ志向との矛盾、もしくは、意思決定プロセスに明確なルールがないことで、合意形成に時間がかかるということが上げられます。

そこで、
 
 役職階層を完全に排した、または一部残しつつも上位役職の権力が経営上影響しにくいような工夫が施した組織が ティール組織 です。
 
人間の脳と筋肉の間に上下関係はなく、明確なルールに則ってそれぞれの役割を果たしています。同じようにティール組織においては、常に進化し続ける「生命体」の目的を実現させるために、メンバーがそれぞれの役割を担って、共鳴しながら組織に関わっていきます。

上司に指示されたからこの仕事をするという働き方から、組織の目的を実現させるために必要だからこの仕事をするという主体的な働き方への転換が起きるため、社員の労働意欲が増し、結果的に生産性の向上にも繋がります。

また、従来の会社組織のように新人社員はこの仕事、管理職はこの仕事という役職階層に基づいた配置ではなく、社員個人の個性や適性、長所を活かした役割配置も重視されます。

例えば、非常に優秀な営業マンでも管理職として優れているとは限りません。足の筋肉に脳を担わせるようなちぐはぐな配置ではなく、文字通りの適材適所を重視することで、社員が各々の能力を存分に発揮できるようになり、組織全体としての能力も上がるでしょう。

ただしこのような適材適所を実現するためには、人事制度の中に個人の個性を発見するための工夫が必要です。ノーレイティング制度360度評価制度などはこうしたティール組織的な発想から生まれたものであるかもしれません。

このように、役職から役割への転換を行い、メンバー一人一人が組織の目的実現のために主体的に行動する組織が、ティール組織という組織形態です。

これからの組織の在り方とは?

明日からティール組織にしましょう、と言って準備もなく突然変えれば混乱を生じるでしょうし、業種業態や環境によっては、ティール組織的な制度を導入することが適さない場合もあります。


「ティール組織」の真価は、単にティール組織が素晴らしいということではなく、組織というものが段階的に成長していくものだという発想と、組織の在り方を見つめなおす契機を与えてくれることであると思います。

今、自分の会社はどの段階にあって、企業のVISION実現というゴールを見据えた時に、果たして今の組織形態や制度が適切なのか、変革の必要はないのか。会社の規模にかかわらず、そうした問いについて考えながら、組織の在り方を見つめ直し、行きつ戻りつゴールに向かって前進していくことが重要です。

「ティール組織」を以前より実践している会社といえば、サイボウズ株式会社が有名ですが、今は大手だけでなく中堅企業や中小企業にも広がりを見せており、業種も様々、ティール組織の在り方も各社それぞれに特色があるようですし、規模の大小に関わらず取り入れている企業が見受けられます。

例えば、HOLISグループでは、ゴルフショップやフォトスタジオ、リサイクルショップ等、異なる業種の会社を経営されてますが、個別に見ると小さな会社もあり、規模に関わらず徹底したティール組織で運営しながら成長を続けています。

ラルー氏のいう5つの組織モデルはそのモデル間に優劣があるのではありません。つまり、ティール組織になることがゴールではなく、経営者自身が柔軟な考え方で新たな時代を切り開いていくことが重要で、その戦略の一つとして、組織の在り方を見直しトランスフォーメーションしながら成長していくことが求められているのではないでしょうか。

・中小企業の強みを活かそう

組織改革の重要性は分かっていても、ヒト・モノ・カネが足りない中小企業は、日々の業務に手いっぱいで組織改革に取り組む余裕がないと思うかもしれません。また様々な本やHPで紹介されている輝かしいティール組織の事例を見て、「うちには縁がないな」「ハードルが高いな」と考えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

でも、限られた経営資源だからこそ、最大限に活用する必要があります。そして中小企業の強みは機動力です。大企業と比較し場合にその優位性は明らかです。

ティール組織の考え方に触れて自社を見つめた時、アフターコロナに向け経営者がなすべきことは何か、限られた経営資源、誰もが幸せに働ける環境を作ることは成長戦略に欠かせない考え方ではないでしょうか。

・活用できる助成金、補助金

中小企業の成長は日本経済の成長に欠かせません。何かにチャレンジする時は国策(補助金や助成金)を確認しておきましょう。今日は少しだけご紹介させていただきます。

まずは、事業再構築補助金、従業員数が20人以下で4000万円、50人以下は6000万円、50人以上は8000万円まで申請できます。

次に、IT導入補助金

デジタルを活用する場合は、こちらがオススメです。

第5次の締切は12/22(水)で通常枠は1/2、低感染リスク型ビジネス枠は2/3で最大450万円まで申請出来ます。

ティール組織にする、あるいは組織変革で人事評価を見直す場合、そんな時は、人事評価改善等助成金の活用を検討してみましょう。

・生産性向上のための人事評価制度と2%以上の賃金アップを含む賃金制度(人事評価制度等)の整備に対して50万円
・一年後に、人事評価制度等の適切な運用を経て、生産性の向上、2%以上の賃金アップ、離職率の低下に関するすべての目標達成に対して80万円

こうした助成制度などを活用しながら組織改革を行っていくことで、社員のモチベーションが上がり、より優秀な人材が集まり定着につながるかもしれません。

これ以外にも様々な助成金や補助金がありますので、活用できる政府の支援策などは積極的に活用していきましょう。

・さいごに

激しく急速に変化が起こっている現代社会では、今後も私たちの想像を超える出来事や変革が起こっていくでしょう。そんな激動の時代をしなやかに生き残っていく企業であるためには、今一度組織としての在り方を見直すことが重要です。現状の課題を分析し、助成金や補助金を始め活用できるものは積極的に活用して必要な組織改革を行っていきましょう。「ティール組織」の考え方は、そのためのヒントとなるかもしれませんね。

<参考文献>

吉原史郎(2018)大和出版『実務でつかむ!ティール組織“成果も人も大切にする”次世代型組織へのアプローチ』

フレデリック・ラルー(2018)英治出版『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』

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